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理経メールマガジン
(2020.3.27 掲載)
実用化が目前に迫る自動運転を後押し!
VR空間を用い、車両開発を数十倍加速する方法とは?
みなさん、自動車の運転は得意ですか? 最近よく耳にする「自動走行システム(AD)」「先進運転支援システム(ADAS:エーダス)」。日本政府は、高速道路における自家用車の自動運転(レベル3)を2020年を目途に、限定地域での無人自動運転移動サービス(レベル4)を2020年までに、それぞれ実用化するなどの政府目標を掲げています。
自動車メーカーは、我先にとADASの開発に取り組んでいます。理経は「防災訓練VR」など、フォトリアルなシミュレーションソフトを多数開発し多くの導入実績があります。今回、株式会社SUBARU(以下、スバル)の依頼を受け、自動運転システムのVR空間を制作、導入いただいた取り組みについてご紹介します。
「自動走行システム(AD)」と「先進運転支援システム(ADAS)」の違いは?
AD(Automated Driving)は運転手を必要とせず、自動で運転して目的地まで届けてくれるシステムです。事故が起きた場合はシステムに責任があります。
ADAS(Advanced Driver Assistance System)はADの一部で、あくまでも運転を補助するシステムです。例えば、車線逸脱警報・アシストシステム、衝突被害軽減ブレーキ、ドライバーモニタリング機能などがあります。人ありきの技術で、事故が起きた場合は運転手に責任があります。
自動運転のレベルとは?
日本政府は、米国SAEインターナショナルが定めた「SAE J3016」の自動運転定義のレベルの定義を採用しています。
レベル0:自動運転機能のない車。
レベル1:ハンドル操作や加速・減速などのいずれかを運転支援
レベル2:ハンドル操作と加速・減速など複数の運転を車が支援する部分的運転の自動化
レベル3:システムが運転してくれる自動運転で、緊急時はドライバー操作が必要。
レベル4:ドライバーが乗らなくてもOKなレベル。交通量が少ない、天候や視界がよいなど、運転しやすい環境が整っているという条件あり。
レベル5:どのような条件でもシステムによって自律的に走行する。
高度な自動運転が実現するには?
自動運転が実現するためには、どういった手順が必要なのでしょうか?
そもそも自動運転というのは、各自動車メーカーが所有する(いつか共有するかもしれませんが)膨大な自動車の走行パターンをAI(人工知能)に教える必要があります。そのパターンは「教師データ」と呼ばれ、AIが最適な運転操作を適宜判断して実行するパーツの一つとなります。つまり、高度な自動運転技術を確立させるには、さまざまな路面、天候、交通ルール、障害物などが複雑に組み合わさった膨大なデータを必要とします。これを実際にヒトが毎日あらゆる条件下で運転して「教師データ」を作り出そうとすると、数百時間、数千時間の走行が必要になります。また、そのときに求めている環境や条件が揃うとは限りません。このテスト工数をいかに減らすかが開発を早期に完成させ、かつ費用を抑える解決策となります。
この工程を現実ではなく仮想空間上であらゆる環境条件を再現して自動車を走行させることができれば、効率的で安全に、膨大な「教師データ」を収集できるというわけです。
シミュレーター内に実世界をVRで再現
車両開発の手法の一つにHILS(Hardware in the Loop Simulation)という、実車の代わりに車のエンジンやサスペンション、タイヤなど車両の動きを数値化しコンピュータ上で再現する開発用シミュレーターがあり、スバルもHILSを使った車両開発を行っています。
一方、理経はVR開発環境として「Unreal Engine4」を用い、防災、安全教育向けVRの開発を行っています。そのリアルな映像品質がスバルの自動運転開発チームの要求に合い、自動運転の開発環境の構築に参画することになりました。従来から使っているHILSに理経のVRを連携し車両開発に取り組んでいます。
フォトリアルなVR空間
理経のVRを連携したことで、テスト走行の撮影時、測定時の再現だけでなく、天候(晴れ、雨、雪、霧など)や太陽の位置、西日があたるとどうなるか、雨天時の路面の反射や雪の凍結、急傾斜の路面の滑りやすさなど、現実では危険な環境までも任意に設定でき、VR空間でシミュレーションが何度でも可能となります。このシステムにより、実車で5~6パターンを1日かけて収集していた「教師データ」が30分で収集できるようになり、開発、走行テストにかかっていた時間が圧倒的に短くなりました。
天候・時間のシミュレーションVR
今後の展開
自動運転技術の進歩にVRを活用する試みはまだ始まったばかりです。理経では国内のみならず海外の自動車開発メーカーの要望も伺いつつ、順次必要な機能を追加していく予定です。また、HMIというドライバーと車が円滑に情報のやり取りをするための手段や技術の可視化などのVR利用の可能性も見えてきており、「VR×車」のビジネスを引き続き牽引していきます。